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【映画鑑賞文】闇金ドッグス

映画

嫌になるほどのリアルな痛み。

 

本作は『ガチバン ULTRAMAX』(2014年)『ガチバン NEW GENERATION2』(2015年)に登場する、安藤忠臣にスポットを当てたスピンオフ作品ですが
従来のガチバンシリーズとは異なり拳で分かち合うような熱さや男くささが一切なく
ただただ冷徹、畜生な人間が描かれたドラマです。
忠臣が闇金のやり方を否定してなんとかクズな債権者を更生させるのかな?なんて中盤まで淡い期待を抱いてましたがそんなこともなく
逆に清々しいくらいのBAD ENDでやられました。お見事。
特にラストの無慈悲さは目を覆いたくなる。血ブシャーとか内臓グシャーよりよっぽどメンタルやられます。
ヨシオちゃんのお母さんはあんだけ非道いことをされても忠臣が家に取り立てにきてボコられた時だけ唯一息子をかばわなかったくらいで
最期までクズ息子を可愛がりつつけてたのがやるせなかったなぁ…
あんたが金なんか貸すからうちの子がー!!って包丁向けるとことか。
その慈悲深さかあの畜生を産み出してしまったってのも皮肉。

欲にまみれて狂った2組の債権者と取り立て屋がアパートの一室で相対するシーンは
カオスで滑稽、キャンキャン吠える姿はまさに野良犬。
無様だなぁと嘲笑しながらも自分はこうはなりたくない、でももしかしたら…という底知れぬ気持ち悪さを感じました。
人間なら誰しも、4人のうちのどこかに自分を重ね合わせて、自己嫌悪に陥れる部分があるのではないでしょうか。
 
893の世界の方はメンツを大事にするから、見せしめとして暴力で肉体的苦痛を与えたり物理的に死に追い込むとこまでやるけど
取り立て屋さんはあくまで回収が目的でありターゲットを死なせたら意味ないので精神的ダメージでじわじわ追いこむ系の拷問が効くんだと何かで読みました。
 
足を洗ったとはいえ元組長としてその世界しか知らなかった安藤忠臣も前半は筋を通せ!プライド守れ!的な美学が捨てきれてないから脅しと昭和バイオレンスな取り立てですぐ飛ばれたり
小中のやり方にも反発したりして苛立つシーンが目立つんですが
小中は元金をどこまで増やすか、ギャンブル的な感覚で楽しんでるので債務者を逃がさず上手い具合に誘導し骨の髄まで搾り取る。
闇金業者の小中を演じる高岡奏輔さん、映画でお見かけしたのは久々でしたが
山田裕貴くんと絡むシーンなどぐっと大人の渋い魅力を引き出してくれていてVシネを見てる感覚でした。
小中が貰いタバコをするたびにその都度、安藤の反応だったりタバコの残数が違ったりすることによって安藤が闇金として成長?する様子と呼応してるのがわかります。
 
闇金の世界では義理人情など甘っちょろいんです。信用するから逃げられる。最初から「きっちり返せる」または「返すアテがない」人には手をかさずにいかに取りこぼさないよう倍にして巻き上げるのか。
あーん、おすわりで自分の甘さを省みるシーンを境に皮肉にも否定的だった小中のやり方にどんどん近づいてって
元組長から債権者の顔つきになってくのが良かった。
一縷の涙は忠臣の最後の良心。
どんな絶望でも生きることに必死でしがみついて目の前の化物を喰らい尽くす。どこまでも野良犬のような生命力が安藤忠臣という役柄の魅力だと思います。
 
前の作品でも絡んでいる子分に裏切られるシーンがあるんです。
忠臣は泣かないキャラだと思い、監督に謝ったら、そこはそれでいいと。
台本には涙するということは書かれていなかったけど、自分が唯一信頼して心を開いていた人間に、実ははめられていて、最後殺されかけた時に、スッゲー悔しくなってきて、それで自然に涙が出てきた。「弱さこそが人間らしさかも知れない」―映画『闇金ドッグス』主演・山田裕貴 -TOKYO HEADLINE-
これね、この本人のコメント読んで鳥肌が立ちました。
山田裕貴は役者であり表現者だ。
役になりきるのと演じるのは似ているようで少し違う、常に俯瞰で役を見れるのが役者だとかの月影先生(ガラスの仮面)が言ってましたが
台本にはない安藤忠臣が憑依した瞬間を監督が迷わずOKテイクにしたのですから。
あの涙は、前作の忠臣を知らない人が観てもピストルを射抜かれたら終わるっていう緊迫感や恐怖が伝わるし
忠臣のこれまでを知ってる人が見れば信頼していた部下にまで裏切られた絶望や溢れ出る悔しさが浮かぶし
どちらにしても安藤という役に肉付けがされるいいシーンと思います。
 
役を生きてる、というより役が山田裕貴の中で生きている。
 
ストロボ・エッジ」の安堂拓海役を演じた際にも本人から後日語られたエピソードで
文化祭シーンで小道具に使われていた模擬店のチラシがたまたま目に入ったので台本にはないセリフ(「チャーハン食っとけ|山田裕貴オフィシャルブログ「Trust yourself.」Powered by Ameba」)を言ったら
それが使われていて嬉しかったという裏話や
役を意識したリュックの持ち方を原作者の咲坂先生が絶賛してくれたと喜んでいたり
あるいは花火大会でヒロインにフラれて1人で帰り道を歩く、という切ないシーンなのに突然「そこでケンケンパしてみて」とアドリブを要求されいざやってみると
「あ、この動きはまさに安堂拓海だ」としっくりきたというエピソードからも
心の動きが演技を作るという経験を本作にもしっかりと活かしているのがわかります。
作品を重ねるごとに役者として貪欲に経験を積んで結果を残して次の役に繋げているのは本当に素晴らしい。ドラマも好調で映像の仕事は勢いに乗ってるのでどんどん露出してってほしい。監督にも共演者にも好かれる人柄と真面目さがあるので、目立つ役でなくてもしっかり存在感が出せる人ですから細く長く出していただける俳優さんに。
欲を言えばまた舞台やミュージカルにも出てほしいなぁ。裕貴くんの歌声とか生の演技好きなので。