グランギニョル覚書「キキ・ワトソンという少女」【TRUMP語シ4】

とり‐こ【▽虜/俘=虜/×擒】

1 生け捕りにした敵。捕虜。
2 あることに心を奪われること。また、そのような人。
 
SPECTER・そして今回のグランギニョルがシリーズの中でも特に「親」いう存在を色濃く描いた物語である中で、子供の物語である葛藤やイニシエーションもしっかりと輪郭が描かれているのが印象的だった。
今回繭期の代表としてあらわれるオズ・キキ・アンリの3人は繭期少年少女誘拐事件の被害者であり、不老不死の研究をしているバルラハによって人体実験を受けていた。繭期の症状を持続・促進させる秘薬コクーンを投与されイニシアチブの可能性を探る研究によって実験台にされたいわば「イニシアチブの虜」の子供たちである。
LILIUMがきっかけでこの世界にのめり込んだ私にとっては見覚えのある純白の衣装でひときわ繭期による猟奇的な笑顔を浮かべたキキ・ワトソンの「みーんな愛してあげる!」という言葉を聞いた瞬間悲鳴をあげそうになりとっさに息を呑んだ。
キキ役の田村芽実が前作で演じたマリーゴールドはダンピール差別によって「みんな大嫌い」「誰にも愛されちゃいけないし誰も愛しちゃいけない」と永劫の孤独を根強く自らに課した少女だった。
繭期が患者の精神状態を著しく助長させる、いわば”拗らせる”症状ならば
キキの中には潜在的に「人を愛したい」気持ちが強くあるということだ。
人を愛したくてたまらない。それは愛されたいという願望でもあるかもしれないし、愛を共有できずに生きてきた孤独感があったからなのかもしれない。
誘拐された被害児童であるということ以外本編では語られないので彼らのバックボーンは想像の域を出ないが
オズもまた、言葉を選ばずにいえば自閉症発達障害児を連想させる身体の動きから
繭期による情緒不安や多重イニシアチブ支配によって引き起こされた予知能力を持つ以前より、成長過程で自責の念に苛まれる遠因があったのかもしれない。
アンリは悪魔の数列である666人ものイニシアチブによって繭期の間だけ不死(不老ではない)の体を手に入れたことで強い自殺願望を抱いてしまったのかと思ったが
やはり「今日は生きていて一番死にたい日だ」という台詞やひいては「ファルス」というシリーズ履修者が呼吸不全になりそうなワードを口にすることで
彼は後のファルス、つまりソフィ・アンダーソンと同じく永遠を望まない少年だったことが明らかになる。
望まずして手にした不死の生。
予言したくないのに見えてしまう他人の死。
不安定な繭のゆりかごで泣いている2人を包み込むキキの慈愛はまるで聖母のようだった。
孤独な夜が紛れるように歌ってとキキにせがむ子守唄。
キキの知っている曲ならなんでもいいと言っていたことから「繭期の子守唄」そのものがもしかしたらヴァンプ世界において「庭師の物語」のように童謡として歌い継がれ、遠い昔にキキ自身が誰かに歌ってもらって、愛された日の記憶をなぞりながら歌ったのかもしれないなあと想像して泣いた。
本当にこの独唱シーンだけは…フラットに役として見ようとしてもどうしてもスマイレージオーデ時代から田村芽実を見守ってきたおたくとして感情を上乗せするなってほうが無理ゲー。
前作LILIUMではマリーゴールドを演じるにあたり末満さんから「本田美奈子.さんのミス・サイゴンを見て研究して」との演出を受けてまさに「命をあげよう」のシーンと重なるような熱唱を見せ、実際に舞台で本田美奈子.さんの生涯を演じたことで経験を積んだ田村芽実が3年越しにサンシャイン劇場に戻ってきて歌うというドラマが感慨深すぎてもう泣かないと決めていたけど無理of無理。奇跡乾杯。

 

めいめいが敬愛する本田さんのミス・サイゴンも母親の物語なんですね…輪廻が繋がる…
そんな大切な家族との惜別によって何があってももう泣かないときめた彼女が涙を流した瞬間、あまりにもあっけなくキキの少女期は終わりを告げる。
オズの予言通り永遠の少女でなくなったキキは愛することが出来る人と生涯を共にし子孫を残すこととなり
遠い未来の少女はマリーゴールドと呼ばれるようになる。
美しく悲しく咲いた少女もいずれ自らの愛によって焦がされて朽ちていく。
「永遠に咲く花はない。だからこそ美しい」ともオズが言っていたから。
イニシアチブによってかつて囚われていた少女から、花言葉に絶望・予言・そして「変わらぬ愛」を持った少女に受け継がれていく呪いでもありはたまた希望なのかもしれない。