【ハブレン小噺】きみがゆめのなかで

ハブレンロス期(略して羽生期)にあたまの中でずっと思い浮かべていたお話です。

蓮太郎が捕まってしまってから出所するまでの間の親春。

ファンアートとか描けないので無理くり形にした小説ともよべないような散文。

タイトルと一部歌詞の引用は好きな曲からです。どうぞ。

http://sp.nicovideo.jp/watch/sm14426922

 

 

 

きみがゆめのなかで

 

『いっそ君のぜんぶが夢ならよかったのにな』

 

「羽生くん…なんで、おるん」 
「おう親春。元気しとったか」

ぼくはひどく驚いている。
夕焼けの空を背負って、ぼくの正面に立って嘘みたいにからからと笑うひと。
羽生くんはここにおってええんやろうか。
ここは、どこなんやろうか。

「おつとめ、おわったんか?」
「何を言うてんねや。お前と兄貴とで万博行く言うたやろ?」
「…ばんぱく、連れてってくれるん?羽生くんも一緒にか!?」
「アホやのお親春は。せやから俺ここにきてんねやないか」

羽生くんの手ぇがくしゃくしゃとぼくの頭を撫でる。前と何も変わらない。懐かしいその響きにぎゅっと胸がくるしなる。
ああきっといままでが夢やってんな。
なんもかわらへん。お父ちゃんも、羽生くんも。

「それにしてもお前んとこの兄貴おっそいなぁ。どんだけ待たせんねん」
「兄やん忙しいんや。おとうちゃん入院してもうたから、稼がなあかん」
「せやかて俺の首長なるやろが。終いに月まで届いてまうど」
「羽生くん、首長なるん?羽生くん、キリンさんなん?」
「アホか。例えや。」

首長なるんはようわかれへんけど、拙くてここちよいこのやりとりがずっと続いてほしい
定春兄やんがもう少しだけ帰らんとおってくれたらええな、とぼくは思った。

 

「せや親春。暇やし、久々に遊んだろか。何がええ?」
「…かくれんぼ!」
「お前はそればっかりやな。まあええわ」
「ほんまに!?ほんまのほんまか!?」
「ほんま以外に何があんねん。ほな俺が鬼や。かぞえんで。」

いーち、にーい。
ぼくは嬉しくて何度もふわふわと宙に浮きながら、走っても走っても声のするところから動いていかない体をもどかしく感じていた。
ごー、ろーく、しーち。
むかしを思い出し右へ左と隠れ場所を探してみる。
ぼくの手足が収まる場所はなかなか見あたらない。
もういいかあい?
羽生くんの声がする。
ジタバタと体を動かして、やっと見つけた暗がりに必死で体を埋めた。
もういいよお!
丸めた背中を起こしてぼくは言う。
振り向いたら今度は羽生くんの姿が
どこにも見つけられへんかった。

 

羽生くん、あんな
お兄やんがうそつくねん 
兄やん 忙しいいうて
ばんぱく いうのに連れてってくれへんねん
お月さんのいし、見に行こいうたのに
羽生くんはな、いけずやねん
ぼくのこと探しに来てくれへん
羽生くん 羽生くん

ぐるぐる体は回る。目を閉じるとお母ちゃんの鼓動が聞こえる。

もういちどぐるりと空が回転して、夜がずっと高くなる。
お月さんがまるいなぁ…


はっと目を覚ましてもう一度振り返る。
人気のない見慣れた部屋。
まどろみながら、わたあめのような甘さが少しずつ溶けていくのをぼんやりと反芻していた。

「親春、おはようさん」

「……おばちゃん」

羽生くんのおばちゃんがお布団の側で衣服を畳んでいる。並べられた洗濯物からはふんわりとお天道さんのにおいがした。

 

「あんたのおとうちゃんにつきっきりでお兄やん色々忙しゅうてかなわんて、しばらく親春の世話見てくれ頼まれたんや」
「ほうなんか。えらいこっちゃ」
「よう眠っとったな」
「…あんなおばちゃん。羽生くんの夢をみてんや」

おばちゃんと羽生くんは同じ匂いがすんねやなあ。
ふと、耳鳴りとともにぼくの聴きたかった声がする。


「………それは、堪忍やな」
「なんでおばちゃんがあやまるん?」
「えらいうなされとったんは、おばちゃんが側におったからかもしれへんからなあ」

ふっと表情を曇らせてきまりが悪そうに手をとめたおばちゃんに寄り添い、弱々しく問う。

「羽生くんは、どないなるん」

ぎゅっ、と祈るようにおばちゃんのエプロンにすがった。
言葉にたっぷりとためらいを置いて、おばちゃんが息を吐く瞬間にぼくは目を見張る。

「……あんこは、まだしばらく”おつとめ”や」


ーーーおとうちゃんも幸い傷がそない深くなかったさかい早くに意識が戻ったんやて。取り調べやらなんやらで退院までかかるやろうけど…とりあえずは大丈夫やで。親春はなんも心配せんでええ。

無理やり明るく振る舞う声がするすると通り抜けていく。
ホルモン臭いエプロンを握ったままぼくが固まってしもうたんは、ぼくの頭が弱いせいとちゃう。
ぼくが子供でおれへんかったからや。
やっぱり、大人なんてなりたあない。

エプロンの匂いをぎゅうっと吸い込みぼくがわんわん泣いているあいだじゅう
おばちゃんはぼくの頭を撫でながら堪忍な、堪忍な、と何度もつぶやいていた。
おばちゃんはなんも悪うない。おとうちゃんも羽生くんも黒男のおっちゃんも悪うない。
悪いんは全部羽生くんと仲良うでけへんかった、ぼくのせいや

窓の向こう
かんかん照りの空はまだまだ高くてとおい。
じゃわじゃわうるさい蝉の声
むしあつい部屋とあしたのジョー
耳の奥でまた声がする。
ぼくの聴きたかった声がする。


『どないせえっちゅうねん!』

なあ、おばちゃん。
羽生くんのこと助けてあげたいねん
ぼくがあかんかったからおとうちゃんも羽生くんもこないなってしもうたけどな、それでも助けたいねん。
なあ、おばちゃん。ぼくどないしたらええ?
羽生くんおらんかったら、仲良うでけへんよ
羽生くんはもうぼくのこと探しに来てくれへんのかな。
いけずして出て来てくれへんのかな。

このまま大人になってしもうたら
目をつむっても会うてくれへんようになる?
かくれんぼも月の石も
間に合わへんようになってまう?


なあ、おばちゃん
ぼく、どないしたらええ?

 

おわり。